2017年10月25日水曜日

2017年10月25日(水)

葉が色づき始めた山あいの道を辿り、高原の家に立ち寄った。この古家を1年前から借りている。間仕切り壁や床のない室内は肌寒かった。窓から差し込む正午の日差しと、歴史を蓄えた漆黒の闇に挟まれて昼食を取った。

しだいにノイズで麻痺していた耳に聴覚が戻ってきた。小川のせせらぎ、日向を飛ぶ虫の羽音、遠くで鳴くキジの声...。麓から選挙カーの声がこだまして通り過ぎていった。
現実の音だけではない。訪れた人たちの声や、囲んだ火の灯りが脳裏で明滅する。25年前にアジアの旅で出会い、数日前にここで会った友人はいま頃東京でどんなランチを食べているだろうか?宮澤賢治と会ったことがある彼の100歳の大叔母は、いま蔵王の施設で誰を想っているのだろうか?

昼休みを終え、再び車に乗り家を後にした。黄金色の風景がバックミラーに流れていく。カーステレオではボブ・ディランが「クイーン・ジェーン」を歌い始めた。


筆名:海子揮一 年齢:47歳 都道府県:宮城

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