2017年10月25日水曜日

2017年10月25日(水)

葉が色づき始めた山あいの道を辿り、高原の家に立ち寄った。この古家を1年前から借りている。間仕切り壁や床のない室内は肌寒かった。窓から差し込む正午の日差しと、歴史を蓄えた漆黒の闇に挟まれて昼食を取った。

しだいにノイズで麻痺していた耳に聴覚が戻ってきた。小川のせせらぎ、日向を飛ぶ虫の羽音、遠くで鳴くキジの声...。麓から選挙カーの声がこだまして通り過ぎていった。
現実の音だけではない。訪れた人たちの声や、囲んだ火の灯りが脳裏で明滅する。25年前にアジアの旅で出会い、数日前にここで会った友人はいま頃東京でどんなランチを食べているだろうか?宮澤賢治と会ったことがある彼の100歳の大叔母は、いま蔵王の施設で誰を想っているのだろうか?

昼休みを終え、再び車に乗り家を後にした。黄金色の風景がバックミラーに流れていく。カーステレオではボブ・ディランが「クイーン・ジェーン」を歌い始めた。


筆名:海子揮一 年齢:47歳 都道府県:宮城

2017年10月18日水曜日

2017年10月18日(水)

夕方に冷蔵庫の中を覗いて見ると、終末のまとめ買いの食材が、今夜ひと晩くらいはなんとか腹をすかさずに済むであろう「わずかさ」で残っている。なにも無いなら無いで、夕食を近所の店で済ませてしまう口実になるのだけれど、この「わずかさ」が心に刺さるのだ。
卵は3個ある。合い挽き肉が3分の1パック、スーパーに行くと必ず買ってしまうモヤシが、ヒゲの先が疲れた感じでひと握り。プラカップに半分の納豆、醤油はかけられていない。刻まれたネギ少々。「そうすると美味しく炊けるよ」と教えてもらい、火曜の朝にといで水を切り、ボウルに移しラップしておいた米1合。
昨晩は結局上司の愚痴ともつかぬ話につき合わされたんだ。
LINEとインスタをチェックする。私の身の回りには特別なことは無く、ただ、私の暮らす街も「ともだち」の暮らす街も水曜日の雨の中にあるようだ。
結局チャーハンを作った。卵と合い挽き肉と納豆とネギのチャーハン。そしてモヤシを具にしたみそ汁。『雨がベランダをシトシトと叩く音と納豆チャーハンは合うのだろうか?』これ以上無いだろう他愛も無い思いの隙間にLINEが届く。

>今から来れる? >今日はやめとく 既読
>じゃあ明日 >うん、明日 既読
>今なに食べてる? >チャーハン >いいね! >うん 既読

スタンプのブタのキャラクターがひらひら手を振る。
フフッとこぼれた声が雨音と共に、夜の街へ転がってゆく。

筆名:小池アミイゴ 年齢:54歳 都道府県:東京

2017年10月11日水曜日

2017年10月11日(水)

昨日、青山のギャラリーへ版画展を観に行った。前にここで帽子を買ってくれたY君がやって来て、型崩れして直したフェルト帽を直接渡すことができた。帽子は先週宅配便でギャラリーに送ってあった。お礼にとY君から紙袋を手渡された。
今日、水曜日。
おやつの時間にその紙袋を開けると、花の絵のカードとたくさんのお煎餅が入っていた。博多のお煎餅。お腹が空いていたので2枚食べた。またすぐに2枚。危険だな。近所の友達に6枚持っていった。ちょうどお母さんがデイケアから帰って来て、2階に上がる前にお煎餅を1枚ポケットに入れていた。それが、嬉しかった。

筆名:スソアキコ 都道府県:東京

2017年10月4日水曜日

2017年10月4日(水)

南米ペルーの博物館で不思議な紐に出会いました。「キープ」という名のその紐は、親紐にたくさんの下がり紐が房状に結びつけられています。下がり紐は所々に結び目があります。 
ペルーを中心に栄えたアンデス文明は他の文明と違って文字文化を持たず、文字の代わりに使っていたのがキープでした。結び目の形や色で数を表す仕組みになっており、人口や食料や納税などの記録を行ったそうです。
さらに興味深いのは、最近の研究で数以外に、歴史や伝記の記録、手紙としても使われていたということがわかってきました。そこで重要だったのは見るだけでなく触れることだったそうです。

赤崎水曜日郵便局が開局していた3年半、全国から届いた たくさんの手紙に触れました。

封を切り手紙を開くと、書き手の机の上の空気とつながるようでした。文字のくせ、ちょっとした間、変化する筆圧から、人となりを感じました。 
文字が書かれた手紙の魅力は、文字以外の部分に触れることができることでした。
ペルーの博物館でキープに出会って、見るだけでなく手紙に触れていた頃を思い出した水曜日。


筆名:五十嵐靖晃 年齢:39 都道府県:千葉